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『彷徨える牙を抜かれた狼たち 』

 午後5時のチャイムがなる。新しいシステムが導入されてからコンピューターの電源が午後5時になると自動的に落ちる。若者と女性たちは何がそんなに嬉しいのか少年少女たちのように目を輝かせデスクをあとにする。
 俺は仕事を続けたかったが真っ暗になったスクリーンは高校生になった娘のように沈黙して俺を邪剣する。数年前までは終電近くまでこのコンピューターと多くの仕事をこなしてきたが、こいつももう俺の相手をしてくれなくなった。
 とりあえずは会社を出てみたものの外はまだ明るく、通りを歩く若者たちは楽しげにどこかへ向かい、白髪の混じった同年代だろうと思われる人々は虚ろな顔を地面に向けトボトボとどこかへ向かっていた。
 家に帰りたくもなければ、やるべき仕事もない俺は白髪のゾンビたちの後をつけることにした。彼らの大多数はゲームセンターや家電量販店、漫画喫茶やカフェに、駅前のベンチでスマートフォンを睨みつけゲームをしているものもいた。
 俺たちの世代はむかし”戦士”と呼ばれ会社のため家族のためにひたすら自分を犠牲にし働き続けてきた。もちろんそれが俺たちのプライドとなり、これまでもうダメかと思ったときもあったがなんとかこうしてここまでやってこれた。そんな俺たちが日が暮れる前に会社を追い出され、行くあてもなく繁華街を彷徨うだけになってしまうとは。
 後をおった何人かのくたびれた戦士は公園へと入った。公園内には5,6人の戦士たちが缶ビール片手に談笑していた。俺は遠くから彼らの姿を眺め、ああいうふうにはなりたくないなと考えながら最寄り駅に向かい自宅に戻った。
 だがその日から俺は毎日その公園のまえを通り、談笑する老いた戦士たちを片目には軽蔑しながらも心の何処かでは羨ましく思いながら家路につく日々を送った。公園にたむろする彼らの3,4人は毎回同じメンバーで俺は彼らのことをスタメンと呼んだ。そして2,3人の控えが日替わりで会合に参加していた。
 謎の会合を知ってから1ヶ月が経った頃、昼食のために立ち寄った牛丼屋でスタメンの1人と出会った。
「あの、突然で申し訳ないのですが、いつも※※※※公園の前を通っていますよね?」
 俺は声をかけられた瞬間、彼のことに気づいたがなんのことかわからないフリを通した。
「はい、通っていますが……どうしてそれを?」
「みんなで話していたんですよ。あの人もオレたちに参加したがってるよなって。いつ来るかいつ来るかってみんなで待っていたんですけど、いっこうにやって来ないからオレたちの方から誘ってみるかってときに、ちょうどあなたに出くわしたんです。で、どうですか今日?来ませんか?あなたの分も用意しときますから」彼は親指を上げ、目尻にたっぷりのシワの入った笑顔を俺に送った。
 午後5時、俺はどうしようか迷ったがあの公園に行ってみることにした。
 いつものようにスタメンと控えが公園のベンチに集まり缶ビール片手に談笑していた。俺は公園内に入り彼らのもとに行き軽く会釈した。
「やっと、来ましたね。オレたちもう待ちくたびれましたよ」スタメンの1人が少年のような笑顔をふりまきそう言った。
「どうぞ、こちらへ」控えの男がそう言い、俺にビールを手渡した。
「あ、ありがとうございます」
 彼らはみなもともとは俺と同じように仕事一筋で生きてきた元戦士だった。ココ最近の改革とやらで残業は出来なくなり、ITがなんたらかんたらで社内で一体何が起こっているのすらわからなくなったとみんなは口々にした。
「最初はみんな各々、街をフラフラしてたんだけど……残業代も稼げなくなったから頻繁に飲みにもいけなくなったし、早く帰っても妻にグチグチ文句いわれるだけだしなーって感じでコンビニで缶ビール買ってここのベンチで飲んでたら、似たような人たちがここに集まったって感じです」
「それでここで昔はああだったなこうだったなって語り合ってるわけです」控えの1人が言った。
「副業なんてどうかなって話しもでたりするんだけど、この歳になるとね……新しいことに挑戦するのってどうも難しいんだよな。若いときはオレたちも改革だ、改革だって言ってたんだけど、気がつけばこのザマってわけだな」スタメンがニヒルな顔を浮かべ缶ビールを握りつぶした。

 翌週は雨が続いた。たまにはまっすぐ家に帰ろうかと思ったが家族から厄介者扱いされる居心地の悪さを感じたため、誰もいないであろうあの公園にむかった。雨の日は会合は中止になると聞いていたので今日は1人で雨に打たれながらビールでも飲もうと思った。たしかハリウッドスターにもそんなやつがいたし、それも悪くないように思えた。
 公園の入口についたとき、いつものベンチの周りに3つの黒い傘が寄り集まっていた。会合は中止のはずなのにな、なんて思いながら傘の方に近づいていくとボソボソと鋭い声が聞こえてきた。
「ロシア産……AK……可能だそうです。RPGの……」
「そうか。新しい情報が……」
「……設計図のことですが……内部のものによると……」
 ロシア?AK?RPG?設計図?内部?一体何のことだ?これまでの会合でそんな言葉1回も聞いたことないぞ。ロシアから来た新しいアイドルグループか?そんなことを考えていたが、傘の内側から聞こえてくる声は冷たくこれまでに聞いたことのない声音だった。
 そのときだった。黒い傘の内側にいた男が振り返り、俺に鋭く殺気の籠もった目を向けた。俺は驚きのあまりヒャッっと声を上げ、その場で固まってしまった。
「ああなんだ。今日も来られたんですね」その男はスタメンの1人だった。
「そうなんですよ。今日はまっすぐ帰ろうかと思っていたのですが、気がついたらここへ足が向かってしまったので……」
「ああわかりますよ。私たちもそうなんです」
 スタメンの3人はいつもどおり俺に接しようとしていたが、明らかに様子は違っていた。俺は聞こうかどうか迷ったが先ほどの謎の言葉について尋ねてみた。
「あの聞くつもりはなかったのですが、ロシアやらAK?、RPG?やら設計図なんて言葉が聞こえてきたんですが、なんの話しをしてたんですか?」
 3人はしばらくのあいだ目配せをしながら無言の会話を繰り広げていたが、リーダーがおもむろに口を開いた。
「実はですね。私たちはテロの計画を立てていたんです」彼は「今日は雨ですね」、というような軽い感じで「テロ」という言葉を口にした。
「テロ?一体何のことですか?私たちは仕事帰りに……みなさんで……楽しく…」
「表向きはそういうことです。でも実際は違うんです。私たちはこの国を転覆させるつもりです」
 この国を転覆?まったくもって意味がわからなかった。
「わ、私ににそんなことはできないし……第一言ってることがわからない……」
「大丈夫ですよ。あなたにはできます。私たちが時間をかけてあなたを見つけ出したんですから」
 ??????見つけ出した?俺を?
「あなたはたまたまここにやって来たんじゃないんですよ。私たちがあなたをここへ導いたんです。あなたを含め私たちはみな犠牲者なんです。私が言ってることあなたにはよくおわかりですよね?」
「オレたちは牙を抜かれた狼なんですよ」俺に鋭い眼光を向けた男が言った。
「牙は無くなってしまったけど、まだツメがありますからね」3人目のスタメンがシワの入った柔らかい笑みを浮かべそう言った。
「今日ここに来ていないメンバーもこの計画のために今いろいろと動いてもらっています」3人の顔はいつものくたびれた戦士の顔ではなく、むかし本で読んだゲリラ戦の革命戦士の顔をしていた。俺が憧れた顔つきだった。どんな手を伸ばしても届かなった表情だった。俺は今どんな顔をしている?
 沈黙の後、リーダーがとどめの言葉を放った。
「どうですか?私たちとこの国を沈めましょう」
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